マルチリンクイーサネット方式は、複数のEthernetカードを使用し、マルチリンクイーサネット機能を内蔵したスイッチと接続することにより、NIC(LANカード)-スイッチ間の伝送路を冗長化し、NICを同時使用(通常運用時にすべての通信パスを"active"状態にして通信を行う)することで、データ転送の負荷を分散し、広い通信帯域となり、送信先システムに対して転送効率の向上を目的とした通信を実現します。
伝送路またはNICで何らかの異常を検出した場合、他の運用中NICへ送信データの切替えを行うことで、通信の継続が可能になります。
マルチリンクイーサネット方式で、使用可能な上位プロトコルはTCP/IPのみとなります。
注意
マルチリンクイーサネット方式を採用する場合は、マルチリンクイーサネット機能を保有したスイッチを使用する必要があります。
なお、マルチリンクイーサネット機能名は各種スイッチによって、マルチリンクイーサネット機能、トランキング機能など機能名称が異なります。
マルチリンクイーサネット方式の通信帯域は、"使用NIC数×転送速度×全二重通信"で表現されますが、通信帯域幅の拡張を意味しているだけであり、転送性能(スループット性能)向上の意味は持ちません。
マルチリンクイーサネット方式やトランキング機能は、データ転送プロトコルではありません。
送信データを分散するための機能であり、受信データについては接続するスイッチの分散方式に依存します。
マルチリンクイーサネット方式は、複数のNICを同時使用することで、負荷を分散し、転送効率の向上を目的とした機能です。
ただし、使用するNIC数が増加することで、自システムのCPU使用率も増加し、システム全体の転送性能(スループット性能)に影響する場合があります。
また、自システムと接続するスイッチで採用する分散方式およびネットワーク構成によっても転送性能(スループット性能)に影響する場合があります。
図1.2 マルチリンクイーサネット方式
以下の"表1.3 マルチリンクイーサネット方式機能表"に提供機能を、"表1.4 マルチリンクイーサネット方式サポートメディア"にマルチリンクイーサネット方式で使用可能なメディアについて示します。
なお、"2.2 留意事項"を必ず参照してください。
使用可能な上位プロトコル | TCP/IP | ||
---|---|---|---|
データ分散方式 | MACアドレス分散 | データ送信時、送信先MACアドレスを元に送信先NICを決定し、データ送信を行います。 | |
ラウンドロビン分散 | 送信するデータを、構成するNICに対して均等に分散してデータ送信を行います。 | ||
送信先IPアドレス分散 | データ送信時、送信先IPアドレスを元に送信先NICを決定し、データ送信を行います。 | ||
送信先/送信元IPアドレス分散 | データ送信時、送信先IPアドレスと送信元IPアドレスを元に送信先NICを決定し、データ送信を行います。 | ||
障害監視機能 | 障害監視 | 伝送路監視デーモンにより、伝送路異常およびパケット異常の監視を行い、障害検出した場合は他の運用中NICへ切替えます。 | |
切替え時間 | 約10秒 | ||
検出可能な障害 | NIC故障、ケーブル故障、スイッチ故障 | ||
障害監視開始/停止 | システム起動時に開始し、システム停止時に停止します。 | ||
切替え機能 | 切替え時の動作 | 該当NIC(通信パス)を停止("fail"状態)し、他の運用中NICにデータ送信の切替えを行います。 | |
切戻し動作 | すべてのNIC(通信パス)が通信("active")状態となるため、意味を持ちません。 | ||
NIC共有化機能 | マルチパス機能で構成するNICを、他の方式または上位プロトコルと共有できません。 | ||
接続(通信)可能な相手装置 | 任意 | ||
DR機能、 | ESFのDR機能 | DR連携スクリプトを提供することでDR機能を実現しています。 | |
SPARC EnterpriseのXSCFのDR機能 | マルチパス制御コマンド(iompadmコマンド)およびXSCFシェルコマンド(deleteboardコマンドまたはaddboardコマンド)によって、SPARC EnterpriseのXSCFのDR機能を実現しています。 | ||
PCI Hot Plug機能 | マルチパス制御コマンド(iompadmコマンド)およびSolaris標準のcfgadm(1M)コマンドによって、PCI Hot Plug機能を実現しています。 |
メディア種別 | ドライバ名 | サポート可否 |
---|---|---|
Ethernet | bgeドライバ | × |
e1000gドライバ | × | |
nxgeドライバ | × | |
ixgbe | × | |
igb | × | |
qlge | × | |
fjgiドライバ | ○ | |
fjxge | × |
マルチリンクイーサネット方式のMACアドレス分散方式について説明します。
MACアドレス分散方式は、送信データに付加される送信先MACアドレスより、マルチパス機能が独自に送信先NICを決定し、データ送信を行います。
本方式は、接続する送信先システム数が多い時など、1台の送信先システムによって伝送路が専有される可能性が減り、他の送信先システムに対して転送効率を向上させる効果があります。
MACアドレス分散方式での送信データの流れを、"図1.3 MACアドレス分散方式での送信データの流れ"に示します。
図1.3 MACアドレス分散方式での送信データの流れ
注意
使用するNIC数によってCPU使用率が増加します。
よって、送信先システムへのレスポンス向上は見込めますが、転送性能の向上は見込めない場合があります。
自システムがデータ受信する伝送路は、接続するスイッチの分散方式に依存します。
スイッチ側が送信先MACアドレスで分散する方式の場合、自システム側のMACアドレスが1つのため、データ受信する伝送路は1本になります。
これに対して、スイッチ側が送信元MACアドレスで分散する方式の場合は、データ受信する伝送路が分散され、マルチパス機能が構成するNICを有効利用し、効率の良い通信を行うことができます。
自システムと送信先システムとの間にルータが設置されている構成では、送信先MACアドレスはルータのMACアドレスとなるため、送信先NICは特定の1つに決定され、データ送信は分散されません。
送信先システムとの間にルータが設定されている構成では、送信先IPアドレス分散方式が有効です。
送信先IPアドレス分散方式については、"1.1.2.3 送信先IPアドレス分散方式"を参照してください。
マルチリンクイーサネット方式のラウンドロビン分散方式について説明します。
ラウンドロビン分散方式は、マルチパス機能が構成されるNICに対して送信データを均等に分散してデータ送信を行います。
本方式は、冗長構成するNICをマルチパス方式やMACアドレス分散方式のように排他使用せず、常時使用したい場合に有効な方式です。
ただし、以降に記載する注意書きのとおり、転送性能の向上は見込めない可能性があります。
ラウンドロビン分散方式での送信データの流れを、"図1.4 ラウンドロビン分散方式での送信データの流れ"に示します。
図1.4 ラウンドロビン分散方式での送信データの流れ
注意
使用するNIC数によってCPU使用率が増加します。
ラウンドロビンによるデータ分散方式は、データ送信およびデータ受信に関わらず、自システムや接続するスイッチにおける処理順序、伝送路ノイズなどによるデータ遅延やデータ紛失などの影響によって、送受信データの順序性は保証されません。
よって、上位層でのデータ再送が発生し、転送性能に影響する場合があります。
マルチリンクイーサネット方式の送信先IPアドレス分散方式について説明します。
送信先IPアドレス分散方式は、送信データに付加される送信先IPアドレスより、マルチパス機能が独自に送信先NICを決定し、データ送信を行います。
本方式は、接続する送信先システム数が多い時など、1台の送信先システムによって伝送路が専有される可能性が減り、他の送信先システムに対して転送効率を向上させる効果があります。送信先IPアドレス分散方式では、自システムと送信先システムとの間にルータが設置されている構成でも、送信データは分散されます。
送信先IPアドレス分散方式での送信データの流れを、"図1.5 送信先IPアドレス分散方式での送信データの流れ"に示します。
図1.5 送信先IPアドレス分散方式での送信データの流れ
注意
使用するNIC数によってCPU使用率が増加します。
よって、送信先システムへのレスポンス向上は見込めますが、転送性能の向上は見込めない場合があります。
自システムがデータ受信する伝送路は、接続するスイッチの分散方式に依存します。
スイッチ側が送信先IPアドレスで分散する方式の場合、自システム側のIPアドレスが1つのため、データ受信する伝送路は1本になります。
これに対して、スイッチ側が送信元IPアドレスで分散する方式の場合は、データ受信する伝送路が分散され、マルチパス機能が構成するNICを有効利用し、効率の良い通信を行うことができます。
マルチリンクイーサネット方式の送信先/送信元IPアドレス分散方式について説明します。
送信先/送信元IPアドレス分散方式は、送信データに付加される送信先IPアドレスと送信元IPアドレスとにより、マルチパス機能が独自に送信先NICを決定し、データ送信を行います。
本方式は、接続する送信先システム数が多い時など、1台の送信先システムによって伝送路が専有される可能性が減り、他の送信先システムに対して転送効率を向上させる効果があります。また、自システムをルータとして使用する場合など、複数の送信元システムから同じ送信先システムへデータ送信を行う場合でも伝送路が占有される可能性が減り、他の送信元システムに対して転送効率を向上させる効果があります。
送信先/送信元IPアドレス分散方式での送信データの流れを、"図1.6 送信先/送信元IPアドレス分散方式での送信データの流れ"に示します。
図1.6 送信先/送信元IPアドレス分散方式での送信データの流れ
注意
使用するNIC数によってCPU使用率が増加します。
よって、送信先システムへのレスポンス向上は見込めますが、転送性能の向上は見込めない場合があります。
自システムがデータ受信する伝送路は、接続するスイッチの分散方式に依存します。
スイッチ側が送信先IPアドレスで分散する方式の場合、自システム側のIPアドレスが1つのため、データ受信する伝送路は1本になります。
これに対して、スイッチ側が送信元IPアドレスで分散する方式の場合は、データ受信する伝送路が分散され、マルチパス機能が構成するNICを有効利用し、効率の良い通信を行うことができます。