本方式では、複数のNIC(Network Interface Card)をそれぞれ異なるネットワークに接続し、これらのNICをすべて活性化します。また、高速切替方式の場合と同様に、仮想インタフェースを生成し、このインタフェースに仮想ネットワークを割り当てます。TCP/IPアプリケーションは、この仮想インタフェースに設定されたIPアドレス(以下、仮想IPアドレスと呼びます)を自システムのIPアドレスとして使用することにより、物理的なネットワークの冗長構成を意識することなく相手システムと通信を行うことが可能となります。
伝送路の監視は、インターネット上の標準プロトコルであるRIP(Routing Information Protocol)に従って行われます。RIPは、Solarisシステムのルーティングデーモン(in.routed)により制御されます。Solarisシステムがサポートするルーティングデーモンのバージョンは1です。
図2.6 RIP方式による二重化運用例
通信するシステム間にルータを配置して、それぞれ別ネットワークに接続します。
インターネット標準のルーティングプロトコルであるRIPを使用しているため、グローバルなネットワーク環境下で、機種を限定せずに様々な装置と通信することが可能です。ただし、RIPによる経路切替えは緩やかに行われるため、切替えには時間を要します。
Webサーバや、3階層クライアント/サーバシステムにおけるアプリケーションサーバとクライアントマシン間の通信に適しています。
RIP方式のシステム構成を、図2.7 RIP方式のシステム構成に示します。
図2.7 RIP方式のシステム構成
各構成要素とその意味は以下の通りです。
二重化したNICの物理インタフェース(hme0,hme1等)を表します。
物理インタフェースに付与するIPアドレスを表します。このIPアドレスは、常に活性化された状態となっています。指定可能なアドレス形式はIPv4アドレスです。IPv6アドレスは指定できません。
二重化したNICを1つに見せるための仮想インタフェース(sha0等)を表します。
相手装置と通信するため、仮想インタフェースに割り当てる自側のIPアドレスを表します。指定可能なアドレス形式はIPv4アドレスです。IPv6アドレスは指定できません。
ルータ監視機能使用時、最初に監視するルータのIPアドレスを表します。
ルータ監視機能使用時、切替え発生後に監視するルータのIPアドレスを表します。
隣接ルータから受信するRIPパケットを元に、相手システムとの最短の経路を選択し、その伝送路を使用して通信を行います。その後、ルータからのRIPパケット受信を監視し、正常に受信した場合にはその伝送路は正常であると判断します。一定時間内にRIPパケットの受信がなかった場合には、その伝送路は異常であると判断し、別のルータから受信するルーティング情報に従って通信に使用する伝送路の切替えを行います。監視はNICに接続されているルータ単位に行われます。なお、RIPによるルーティング制御は、Solarisシステムにより実行されます。
図2.8 RIP方式における監視方法(ルータ監視機能未使用時)
伝送路上に障害が発生した場合のRIPによるネットワーク経路の切替えには、最大で約5分程度の時間を要します。
以下の障害を検出する事ができます。
図2.9 RIP方式における有効監視範囲
(1)~(4)は同一の障害として見えるため、これらのうちのいずれであるかを特定することはできません。それぞれの機器の調査が更に必要となります。
仮想インタフェースの活性化時に自動的に監視を開始します。また、仮想インタフェースが非活性化された場合に自動的に監視を停止します。またクラスタ運用の場合は、クラスタアプリケーションの起動、停止に連動して、監視の開始、停止が実行されます。
それまでRIPを受信していたルータとは別のルータから受信するルーティング情報に従って、通信に使用する伝送路の切替えを行います。
図2.10 RIP方式における異常発生時の切替え動作概要
伝送路が復旧すると、RIP情報に従って自動的に経路を元の状態に変更します。なお、手動で切戻し動作を行う事はできません。
任意のシステムとの接続が可能です。なお、自システム側のネットワークに接続するルータには、富士通LINKRELAYシリーズを推奨します。
本方式にて動作可能なユーザアプリケーションの条件は以下の通りです。
複数のNICを接続し、複数のIPアドレスが定義されているシステム(これをマルチホームホストと呼びます)上でも動作可能である必要があります。例えば、socketアプリケーションの場合、自IPアドレスを、bind関数で固定に設定している、または自IPアドレスは任意でかまわない(通信相手側のアプリケーションはIPアドレスチェック等を行わない)ように動作する必要があります。
使用する物理インタフェースには、必ずIPv4アドレスを設定してください。
複数サーバからRIPが送信されると、経路情報の伝搬が複雑になり、切替えに予想以上に時間を要する場合があるため、RIP方式で動作するマシンは同一ネットワーク上で1台として下さい。
使用するネットワークは、サブネット化することはできません。必ずクラスA,B,Cのいずれかのネットワークを、サブネットマスク指定をせずに直接使用してください。なお、以下の条件に一致する場合には、サブネットマスクを指定して使用することができます。
サブネット化するネットワークアドレスは1つのみであること。
サブネット化するネットワークアドレスのサブネットマスク値は、ネットワーク全体で一意であること。
/etc/inet/netmasksファイルにそのネットワークアドレスのサブネットマスク値が設定されていること。
IPv6アドレスは使用できません。
基本OSがSolaris 10の場合、ルーティングデーモンの設定はrouteadm(1M)コマンドを使用して定義します。設定方法については“3.2.2.3 RIP方式の設定”を参照してください。