富士通は、拠点ごとに運用していたファイルサーバを一カ所に集約し、ファイル共有サービスをグループ全社にクラウドで提供している。集約にあたっての課題は、遠距離の拠点や外出先から同サービスを利用する際に発生するネットワーク遅延を解決することであった。そこで富士通独自のデータ転送高速化技術を搭載する「FUJITSU Software Interstage Information Integrator」を導入。WAN経由の通信を最大20倍に高速化した。既存のハードウェアやシステムを増強することなく、ソフトウェアの導入だけで遅いと感じさせない快適なアクセス環境を実現している。
[ 2016年1月15日掲載 ]
業種: | 情報通信業 |
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製品: | ソフトウェア
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1 | 遠隔地のファイルサーバへストレスなくアクセスしたい | WAN経由でも快適なアクセスを実現 | |
2 | 既存のネットワークインフラに手を加えず高速化したい | ネットワークインフラはそのままソフトウェアだけで高速化 | |
3 | 高速化にかかる費用を抑えたい | 専用ハードウェア不要で導入・ランニングコストを抑制 |
富士通は、ICTベンダーとしてより高品質な製品やサービスを提供すべく、自らも最新のICTを活用し、グループ全社のICT最適化を推進する。
纐纈 孝彦
富士通株式会社
IT戦略本部 IT戦略本部長
「お客様にご提供する製品を全社で十分に活用し、知見を積み上げ、磨き上げることで品質を担保します」とIT戦略本部長の纐纈 孝彦は語る。
IT戦略本部は、グループ全社のITガバナンスの強化から高品質な製品の開発サイクルの支援までを担う。
全社的に取り組んでいるのがインフラの集約と仮想化を中心とするICTシステムの集約だ。
「ICTシステムの集約により外出先などでもオフィスと同様の環境を利用するモバイルワークも可能になり、社員の働き方の変革も進んでいます」(纐纈)
クラウドで利用するファイル共有サービスは、2015年現在の総利用者数が約6万人。今後、富士通グループ全社へのさらなる展開を予定している。
「これまで事業体や事業部門ごとに個別にシステムを構築し、それぞれ最適化を図ってきた結果、各拠点にファイルサーバが点在していました。そのため、運用コストの増大やデータバックアップの効率性、情報セキュリティ管理の強化などが課題でした」(纐纈)
同サービスの提供によりこれらの課題は解決したが、活用が進むにつれ「ネットワーク遅延」という新たな課題が発生した。
従来、LAN環境でアクセスしていたファイルサーバをクラウドへ移行したため、通信がWAN経由に切り替わったこと、加えて、多くの利用者が同じ回線を使用して回線が混雑したことに起因する。
同サービスの構築・運用を担当する株式会社富山富士通 コミュニケーションサービス統括部 情報セキュリティ推進部長の稲垣 明は、「ファイルサーバから遠距離にある拠点では、データのアップロードとダウンロードに時間がかかることから、ファイル共有サービスへの移行が敬遠されていました」と当時を振り返る。
稲垣 明
株式会社富山富士通
コミュニケーションサービス統括部 情報セキュリティ推進部長
WANを高速化する場合、回線を増強すると高額になる。
回線を太くしても、ネットワーク遅延や回線品質が原因で帯域を使い切れないことがあるため、WAN高速化装置を設置することも多い。富士通社内の一部でも、WAN高速化装置の利用実績がある。
「製品コストに加え、アップグレードなどのランニングコストが必要なため、ファイル共有サービスで広く活用するにはコスト負担が大き過ぎました」と纐纈は打ち明ける。
ネットワーク遅延の解決策として導入したのが、「Interstage Information Integrator」である。
富士通研究所が開発したデータ転送高速化技術を搭載するInterstage Information Integratorは、データ最適化技術で転送データを削減しながら独自の高速転送プロトコルで帯域を最大限に活用する。
データ最適化技術は、重複除去機能と圧縮機能からなる。
重複除去機能は、一度送信したデータを送信側と受信側の双方で保存するため、二度目からは同じデータを省略して送信する。
さらに、転送されるデータの中で、統計的に出現頻度の高いデータを優先的に保存することで、ディスク容量が限られた端末においても、高い重複除去性能を実現できる。
圧縮機能は、データ内に繰り返し出現するパターンの発見率に応じて、探索間隔を動的に調整し、CPU負荷を抑えつつ高速圧縮を行う。
干場 久大
株式会社富山富士通
コミュニケーションサービス統括部 コミュニケーション運用サービス部
高速転送プロトコルは、パケットが消失しても高速に検出して効率的に再送することで、通信距離や回線品質の影響を受けずに帯域を最大限に活用できる。
Interstage Information Integratorだけでデータ転送の高速化を実現するため、WAN高速化装置のように既存のネットワークインフラに手を加える必要がなく、導入時の負担が少ない。
「Interstage Information Integratorの稼働には、特別なハードウェアは必要なく、サーバとクライアントPCにソフトウェアを導入するだけで済みました。その上、導入も簡単で、すぐに効果を実感できました。」と株式会社富山富士通 コミュニケーションサービス統括部 コミュニケーション運用サービス部の干場 久大は語る。
同サービスは、ファイルサーバにストレージ「FUJITSU Storage ETERNUS」を利用。Interstage Information Integratorはファイルサーバを集約したデータセンター内のPCサーバ「FUJITSU Server PRIMERGY」に導入した。
ファイルサーバから遠距離にある一部の拠点を対象に検証した結果、回線遅延22msの環境では10MBのテキストデータのアップロードは15秒から0.9秒(約17倍)に、ダウンロードは3秒から0.8秒(約4倍)にと大幅な高速化を実現している。
「遠隔地にファイルサーバがあるのに、まるでLAN環境でアクセスしているような感覚で使えると、多くの利用者から驚きの声が上がりました」と稲垣は話す。
Interstage Information IntegratorはクライアントPCにも導入するが、その負担は小さい。
「クライアントPCへの導入の手間を心配する声もありましたが、実際にはウイルス対策ソフトウェアよりも簡単で、時間をかけずにインストールから設定まで終わらせることができたと利用者からも非常に好評でした」と干場は強調する。
「クライアントPCのCPUにほとんど負荷がかからないことも評価されました」(干場)。
【富士通株式会社実践事例 システム概要図】
同サービスでは、Interstage Information Integratorの導入により,遠隔地からでも快適にファイルサーバにアクセスできる環境を構築し、課題だったネットワーク遅延を解決した。
既存のハードウェアやシステムを増強せずに、ソフトウェアの導入だけで、WAN経由の通信を大幅に高速化することができた。
利用者は、時間をかけずに簡単にインストールし、WAN経由でありながらWAN環境と同様に、遅いと感じることなく同サービスを利用している。
この導入効果を受けて、同サービスの活用範囲は拡大を続けている。
「現在、回線遅延20msを越える遠隔地を中心として約20,000人がInterstage Information Integratorを利用していますが、2016年度上期中に全社向けに展開し、さらに活用エリアを拡大します」と纐纈が計画を語る。
稲垣は「Interstage Information Integratorはサーバとクライアントの距離が遠ければ遠いほど、大きな効果を発揮します。そのため、海外での運用には絶大な効果もたらします」とInterstage Information Integratorのさらなる活用を示唆する。
ファイル共有サービス以外にもInterstage Information Integratorを活用できる。例えばバックアップでの効果は大きい。
「複数のクラウドストレージをまたいだバックアップに苦労をしている場合は、Interstage Information Integratorを導入することでバックアップ作業の効率化とともに、バックアップ頻度を増やすことが可能です」と干場は説明する。
今後のグローバル展開に伴う海外との通信やクラウドサービスの活用には、Interstage Information Integratorが実現するWAN通信の高速化が大きく貢献すると期待されている。
富士通株式会社担当者
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